日 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 |
---|---|---|---|---|---|---|
まずはじめに、生物の標本などにグロテスクな印象を持たれるお方はこのページの観覧をお控え下さいませ。
本コーナーでは生物学における分類学や比較解剖学、発生学の研究技法の一つである『透明骨格標本』というもので、脊椎動物であるメダカ(Oryzias latipes)の骨格を体型区分に渡って写真で紹介していきたいと思います。透明骨格標本は小型 脊椎(せきつい)動物や脊椎動物の胚の骨格要素を観察するために編み出された技法であり、硬骨のみ特殊な色素で染色、又は硬骨と軟骨を別々の色素で染め分けて軟組織を透明化し、透明な肉質の中に鮮やかに染色された骨格が、生時の立体配置で観察できる画期的な且つ、見ていてとても美しい標本なのです。それは本稿で紹介する『透明標本』なのです。
透明骨格標本を作製するには、まず標本のタンパク質をホルマリンで固定して、しっかりと分子間の架橋を形成させる。次に、アルシアンブルーという色素で軟骨を染色する。アルシアンブルーは、酸性多糖類の硫酸基と結合する性質を持った『青い色素』で、軟骨のコンドロイチン硫酸と結合する。このため軟骨部分が特に著しく青く染まることになる。次に、アリザリンレッドSで硬骨を染色する。アリザリンレッドSは『紫色の色素』であるが、金属イオンと結合して赤く発色する。硬骨には燐酸カルシウム(燐灰石)の結晶が沈着しているため、これとアリザリンレッドSが結合し、硬骨が赤く染色されるわけである。染色が終わった標本は水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのような強アルカリの水溶液やプロテアーゼの水溶液の中で、タンパク質のペプチド結合を加水分解する。タンパク質分子の間は、既に側鎖のアミノ基の部分でホルマリンのホルムアルデヒドによって架橋されているため、この分子間架橋のネットワークが残存し、組織は外形を残しつつ適度にすかすかになる。最後にこの標本の中の水分をグリセリンで置換してやると、軟組織はほぼ完全に透明化し、赤く染まった硬骨と青く染まった軟骨が外部から容易に観察できるようになる。ここまでの工程は標本にするものの大きさにもよるが、メダカでは約数週間~1ヶ月間はかかる。メダカでこれだけの製作期間が必要なのでだから、より大きな生物での製作機関は余程長い。また、メダカによっても育った環境、食べて育ったエサなどにもその仕上がりの結果は左右されるという。いずれにしてもその完成に至るまでには非常に根気のある作業と、卓越された技術が必要であることは確かだ。また、前途にあげた作成に必要な薬品の数々はなかなか素人では入手も容易ではなく、また高価でもあるのです。め組。では幸いにその製作を委託する専門家の協力を得る事に実現した。
『透明骨格標本』日本メダカ(Oryzias latipes) Ver.で学ぶ事
そもそも、この標本作成を考えたきっかけは、俗に言う『ダルマメダカなど』(学術的にはチヂミメダカとして1930年に発見された)など通常体型のものに比べて脊椎(せきつい)骨が融合し骨格が変異したチヂミ因子を持ったメダカなど、その異常な椎体数による欠失という状態とはいかなる様子なのか?あるいはこれもまた俗に言う『背曲がりメダカ』(脊椎が湾曲したセムシ因子をもつメダカ)などに関しては、いかにしてその湾曲の歪み具合、脊椎の数など通常の物とどう違うのか?そのためにはメダカの骨格をしっかり見て見たい!そんな日常の疑問から、メダカの標本作成方法成るものは無いだろうか?という思いを持ったのが始まりです。
思い立ったら直ぐ、実行!そこでいろいろ調べるうちにこの『透明骨格標本』に出会うまでそう時間はかかりませんでした。生物学において骨格を知るというのは非常に重要なファクターですが、め組。のようなメダカ(生物)を取り扱うお仕事においてもその分野の積極的解放や少しでも個人で知識を持つということは、まったく必要ではないとは言えないと思っております。改良メダカを作出していく上でも予備知識として知っておきたいことはたくさんありますし、実際にそれらを知っていることでも役に立つ事が多くあるからです。
メダカ飼育を純粋にお楽しみの方からは、なんだかグロテスクで気持悪い、悪趣味、なんだか見ていてかわいそうというご批判を受けそうですが、め組。はこういった行為を生半興味な気持ちで実施しているのではありません。何卒ご理解頂ければ幸いです。メダカも生き物です。この世に生を受け、一匹一匹無駄な命はございません。そのメダカが死してその生の『証』を残したもの。そこに死しても尚、『語る』それが見えるのです。この標本が教えてくれる事は、計り知れません。
例えば、前項にも申しましたが『背曲がりメダカ』はその容姿がどんなに色彩的にも良い発色をしていようと、メダカ業界では販売をタブーとして見る傾向があります。鑑賞におけるその商品価値として見るに耐えないなどという観点で、取り扱うメダカ屋さんは一般的に居ないように伺えます。ですがこの奇形体型の現状にも一つ参考になるヒントが見えてくるかもしれません。
ダルマ体型は背骨(脊椎ーせきついー)が通常より少ない?それでは背曲がりにおいては通常より『多い?』から体内に骨が収まるキャパオーバーでどうしても歪み(曲がり)が生じてしまうのだろうか?という素朴な会話があったとしても、この標本はそんな疑問にまず一歩、面白い見方をさせてくれるのです。また目前メダカなども、その斜め前方にせり出した目によって、口の骨格は非常に小さくなっており、通常でも口が開きやすい傾向にあるのか?どうなのか?という意味でこの標本を見るとまた興味深いです。
※余談ですが『背曲がり体型』と『ダルマ体型』など、そもそも一部で珍重されるものの価値観の違いが両者の存在価値を明白に分断してはいます。ですが冷静に見ればどちらも奇形体型という見方もあります。
改良品種作出における一つの定義かもしれませんが、何が良くて何が悪く見えるのか?人間の目線が決めるその価値観。それが観賞用ペットとしての宿命なのでしょうか。
メダカの美しさというものは、生時のかわいく美麗な色彩も当然さることながら、標本でしか見れないこのしなやかで微細で緻密に組み込まれた骨格形成や機能。全てこの小さな機関が正確に機能しているのです。それはまた、生命の神秘!内部の美しさとして非常に鑑賞していて感慨深いものがあるのです。
どうぞ皆さんこの小さなメダカの体内にある、神秘的、機密構造の形成物をじっくりご堪能ください。