今日のメダカブームの楽しみ方の一つとしてあげられるのは「改良品種の作出」ではないでしょうか。中でも劇的に進化したカテゴリーは、紛れもなく「メダカの体色表現」かと思います。メダカにおける野生メダカ以外の色物の存在は、17世紀ごろの江戸時代には既に緋(ヒ)メダカや白メダカが出現しており、当時の愛好家によって飼育されていたことは文献にある限りで、そこから現代に至るほんの20年前までは、その容姿も大きく変貌せず、緋(ヒ)メダカ、白メダカ、青メダカなどの数種程度のバリエーションで観賞用として長く愛されてきたのです。

 

 こうしたメダカ飼育の嗜みは、その飼育の手軽さと癒し効果から、特に高齢者の方には人気があり、これまで若い層の方がメダカ飼育を積極的に楽しむには、少し地味な印象がありマイナージャンルであったのが一般的な認識のようです。それがほんの十数年前のことでした。しかし、その間に今やメダカ飼育の魅力は激変し、趣味としても高い地位を確立し、立派にペット業界を支えるまでビジネスマーケットも拡大し、流行りに敏感な大手のペット資材メーカーもこぞって商品を後追い開発販売するまでに市場は変貌したのです。

 アクアリウム低迷期と言われる現代には、小型のシュリンプブームに次いで、飼育スペースを取らず維持管理コストが低い、マイクロアクアリウムとしての趣味と実益思考のカテゴリーに発展したと言えます。

 

 こうした中、メダカ人気と共に改良メダカの個体数も全国で破竹の勢いで増殖し、メダカの体形、色、模様は、劇的に進化(変異)したのです。中でも、今回注目する「メダカの体色表現」部門においては、今や全身真っ黒や赤白黒の三色柄や、目が赤いアルビノ、頭だけ赤い丹頂紅白、体の色が透明、全身が光の反射で輝くメタリック、全身虹色のラメなどなど、様々な色表現に進化(変異)しました。20年前では考えられない変貌を遂げました。

 

 この現象は、通常の観賞魚(魚類)が展開する色彩表現の改良スピードの何倍もの速さで、バリエーション展開しているように思います。これが「現代に突如流通したメダカの持つ不思議な遺伝子」の産物であり、加えてメダカの高回転繁殖サイクルの生態でも、それが加速度を増し、この爆速変異形質の出現となっているのだと思います。

 

 また、近年メダカの愛好家が激増していることもあり、全国各地で行われる莫大な繁殖数と異種交配のバリエーションによっても、その勢いに拍車がかかっているのが現状です。こうした中、日進月歩でいろいろな改良品種メダカが出現してくるのは、趣味の世界では、直ぐに結果が出るもので、本当に面白く、メダカビジネスにおいても、その付加価値が多様に急上昇しています。これがメダカが流行る魅力の一つでもあります。

 

 本項では、その魅力に魅了され、これまで様々な改良メダカを世に発信して来た経験の中、改良品種の作出における一つの特徴を追求し、日々模索する探究心を綴った独自解釈で提唱してまいります。あらかじめ申し上げますが、当方は博識な学位を持つ研究者ではありません。 また、業界団体、数多い協会組織などにも属していないため、識別表現、呼称、解釈も、厳しい規制、制約はなく、忖度なしでほぼ自由解釈で論じ発信するスタイルとしております。全て個人の経験と貴重な文献等に学ばせて頂いた知識をベースにしています

 

 しかしながら、中には残念ながら、まだまだ稚拙で無知による思い込み、認識違いも多々あるかと思います。そこも面白いところです。どんな嗜好でも、探究心を忘れることなく、思いつくまま掘り下げ、まずは楽しむべきです。こうした記事もこんにちのメダカブームの可能性を萎縮させることなく、「広く」「深く」「気軽に」「面白く」エンターテイメントとしても、盛り上げていける切り口になれば良いと思います。それが長年メダカと向き合ってきた者の役割と考えます。

 

  

 

 

 

 

 

 『月虹(げっこう) -GEKKO-』という名のメダカは、2011年12月に当方が、世にリリースしました。

(2011年特集記事はこちら)(すばらしきメダカロマン掲載はこちら

 

 このメダカの特徴は、体高頂部の背中を上から見て左右に縦割りで頭部から尾の方向にかけて、綺麗な虹色の光彩がのるというものです。その表現は、鱗片上の飛散ラメ群の部類ではなく、さまざまな形状の島状の斑紋体でもあり、その法則は帯状の両端に伸長形式としている。

 その出現範囲も体幹胴部の1割から9割と幅広く個体差がある。特に広範囲に光彩が乗る個体は、メダカにおける光彩表現とは思えぬほどの突出美の極みで美しく、誕生から10年経過した今でも、この個体群は大変貴重な品種として扱われています。まさにこの部類において勝る表現はない稀代の品種として名を残しています。

 

 ちなみに、この月虹という言葉の由来に関して少し語ります。漆黒の夜に現れた月の明かり。極めて希で限られた条件下のみに発生すると言われる、特異な気象現象に『月夜にかかる虹が発生する現象』がある。時に「夜の虹」とも呼び、その光彩が放つ情景はとても美しく幻想的だと言われる。

 

 この月夜の虹のことを人は『月虹(げっこう)』と呼び、その美を敬仰し親しんできました。ハワイでは、その月虹を見たものには「幸せが訪れる」という言い伝えもある。このなんとも美しくドラマティンクな情景を、小さなメダカの体にオマージュし、命名しました。

 

 

 

   

  ちなみに、このような特徴に関しては、ある日突然、出現し発見した訳ではなく、そこには地道な累代繁殖と試行錯誤の交配無くしては実現し得なかった過程があります。この月虹の魅力に辿り着いたきっかけは、これも改良メダカ史上 、その名無くしては語れない品種「螺鈿光(らでんこう)」(2011年 特集記事はこちらの存在がとても大きく影響しているのです。この螺鈿光は、改良メダカが未開発な頃、そのセンセーショナルな容姿にも関わらず、逆にそうであるが故に、奇しくも意図的に消し去られる運命を辿りつつあった、美しき不遇の品種なのです。それを唯一当方の元で大切に保存し、やっと世に繋ぐことが出来た特に思い入れの深い希少品種です。

 

 当方はこの螺鈿光メダカの特徴に、既にこの月虹のトリガーとなる特徴が潜在していることを見出していました。また、累代繁殖の改良作出においては、その種火を絶やすことなく、とにかくその部分だけの拡張に心血を注ぎ、漸く固定化に成功した経緯があります。その後、メダカでは初めて、背に虹色の光彩が乗る特徴を持った品種が誕生したのです。それを『月虹(げっこう)』と定義し、新たな品種名として世にリリースしました。現在では、この月虹品種から派生した、他の品種も多く作出しており、様々な表現でこの「月虹」を広く継承していっています。中でも、この虹色の部分の一部の色が、瞬時に変化する個体群まで出現するなど、改良メダカにおいてはこの領域のポテンシャルはまだまだ計り知れないドメインとして成長しています。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 改良メダカにおける体色表現において、当方がこだわり続けた一つのカテゴリーに「虹色素胞」の存在があります。今回、これについて独自の仮説も含め掘り下げていきたいと思います。
 メダカの体色展開の一つで最も人気の高い派手で艶やかな表現は、やはりメタリック調の色調バリエーションではないでしょうか。これは主に色素細胞の「虹色素胞」の量と配置や形質に大きく影響しています。この虹色の色素細胞は、主に1mm の 1/1000 を 1μm(マイクロメートル)の1μmのさらにその半分の0.5μmなどの単位サイズの領域で、同じ細胞でも体に存在する部位によってその形状が違い、プリン桿(たて)状や針状平板の顆粒、グアニン顆粒、格子状に配列するグアニン顆粒の抜け殻と称されるものがあるようです。

 これらの形状や配列などの特徴に対し、光の反射、屈折率が強く関係し薄膜干渉現象となって様々な色合いの表現(物理的構造色)があります。虹色素胞は、「色素胞」と称しますが、他の色素胞などと違い色素細胞自体に色を持ち、固有の色を見せるものではなく、外光からの反射(多重屈折)によって、そこに色々な色があるように見えるという物理構造になっています。例えるなら、シャボン玉ですが、シャボン玉液にはほぼ色はない透明に見えますが、ストローで膨らませて、空中に放たれたものは、その球体の表面がゆらゆらと綺麗な虹色に見えます。これも、外光の反射(光の屈折)により見える構造色原理の一つなのです。
 こうした虹色素胞の表現の中では、銀白色に特化したもの、玉虫色に特化したもの、青色系統に特化したものに細分化されたりもします。


 例えば、銀白色に特化した「銀色虹色素胞」においては、光の屈折率の高低による工学的層の厚さがあり、非常にバランス良く等しく成層する場合には、反射する波長域の可視光全域が完全に反射され、表皮が鏡のような金属光沢の銀白色が実現する。これはタチウオなどの体表が鏡面のような魚類の特徴が分かりやすい。メダカにも銀色虹色素胞の部分はあり、主に体腔内の内臓を保護する内臓膜やエラ蓋、表皮内の真皮層にも存在する。こうした金属光沢の鏡面的機能は、本来の虹色素胞の役割の一部とされる、紫外線などの外光から、体内の組織を保護(反射)する機能が実現している。また、こうした虹色素胞の構造では、規則的な重成層構造型を「理想型」と定義すると、この光の屈折率の高低差の不バランスな配列や層数が、前項の理想型の質に類さない場合に、様々な複合的な波長域の色表現をする色素細胞構造が存在する。これは、前者の「理想型」に相反して、反射光の波長域の反射率が低くなることで、完全な反射ではなく、波長域の色が生じてくる。このように、玉虫色や青系などの反射の波長域によって生じる色が見える構造色の虹色素胞を「理想型」の反対の「非理想型」という位置付けで区分されるようです。こうした理想型、非理想型などの「重層薄膜干渉現象」による、「虹色素胞」の幅広い表現と存在こそが、まさにメダカのドラマティックな美しさの源であり、奥深い物理的原理なのでしょう。


 メダカにおける色、模様表現を決定する細胞レベルの「色素胞」は、この「虹色素胞」のみではなく、他にも「黒色素胞」「黄色素胞」「白素胞」の存在があります。その色素胞については、2012年3月に、当ホームページで特集しました。 (こちら)

 

 

 「色素胞」に関しての基礎知識は、現在メダカ愛好家さんやメダカショップも、ブログ、ホームページ・出版物などで普通に触れるようになったことで、メダカにおける色素胞の基礎知識も初心者の方でも知る機会も増えてきました。しかしながら、その研究においては、まだまだ文献はあまり多くありません。また、現在の改良メダカをモチーフにした研究価値のニーズ自体が無いのかとは思いますが、その部類に関する本格的な研究はあまりなされていないようです。なので、逆にこの分野でさらなる興味(不思議)をもっと専門的に解明できれば、研究内容が特異な分野で評価されるかもしれませんね。ただそれは、同時にパンドラの箱を開けてしまいそうで複雑な思いでもあります。
 しかしながら、趣味の世界、愛好家レベルでも、こうした専門的な知識に興味を持ち、夢を膨らませ、理解しようとする不思議探求の好奇心が、メダカ飼育をさらに楽しく、価値ある世界観に成長させることでしょう。

 

 少し話がそれましたが、改良メダカにおける、この「虹色素胞」の出現と特徴は、主に魚体の背地(体高頂)において顕著ですが、今やその分布領域は、全身に及ぶと言って過言では無いと言えます。「虹色素胞」の出現が多い個体の色合いでは、青系、シルバー系、ゴールド系、玉虫色系が一般的です。当方が継承している希少品種『螺鈿光メダカ』のベースがこの虹色素胞を基調としています。他にも青のメタリック系でポピュラーな幹之メダカもこの虹色素胞の増形成によるもので、今や初心者の方から愛好家の方まで安価で入手しやすく流通しています。

 

 「虹色素胞」については、とにかく難しい話はさておき、メダカのボディーにおいて派手な演出をもたらしてくれる。いわば夢の詰まった色素細胞と言えます。改良メダカ作出において、この「虹色素胞」の分布と変異をどう導き、操るかが、改良の醍醐味であり非常に面白いところなのです。