螺鈿光(らでんこう)という名のメダカ
こんにちまで様々な改良メダカが出現した中で、ひと際その圧倒的な存在感ときわめて複雑且つ美麗な容姿をまとったメダカの(品種名)ことを言います。まずはこの螺鈿という名前の由来から、説明致しますと、「螺鈿-らでん-」という表現は、古くから伝わる伝統工芸の技法の一つに『螺鈿』(らでん)細工』という技法があります。その技法は夜光貝やアワビ貝にある、真珠質の部分を砥石(といし)で研磨し、一定の厚さにそろえ、文様の形に切って漆工芸品の漆塗面にはめこんだり、貼りつけたりする技法のことを言い、光の当たり具合によって、貝の部分(真珠層)が青や赤、紫、オレンジなど美しく光輝くのを利用した加飾技法のことを言います。
そのような意味合いを踏まえて改めて、このメダカを見ますと、外観がまさにその螺鈿細工が体表に施されたかのごとく、美しい光彩を放ち、その光も非常に奥深い表現をしているのが分かります。なので、本種を作出された方が迷わず、『これはまさに螺鈿細工のようだ!そうだ螺鈿光と名付けよう』と命名されたのでしょう。(セリフは推測です)
また、螺鈿の『鈿』(でん)という字には【ちりばめる】という意味があり、このめだかの最大の特徴でもある、体全体(特に背側よりに多い)に及び、様々な色調光の干渉現象が体内外同時に及び、それがちりばめる【鈿】という特長に非常にマッチしており、このメダカを長く見て来た私も日々この名前とこの品種の特長との絶妙な一体感を痛感させられている次第なのです。
私もよく自己作出してきたオリジナルメダカに命名することもありますが、このネーミングセンスには今でも頭が下がります、もちろんこういった素晴らしい品種を作出された偉大な業績もしかりですが、やはりそのネーミングに失敗すると、たとえそのメダカに魅力があろうとも、あまり永続的な人気と認知性にも繋がらないと思うのです。そしてそれは大袈裟に言うとその血統の衰退をも意味するのではないでしょうか?私は改良品種の名付けという作業も、その品種を生かすも殺すも一つの需要なファクターであると考えています。そういった意味でも、この螺鈿光という呼び名を私はこれからも尊重し、絶賛したいです。
ちなみにこの螺鈿光は、2002年4月に香川県高松市にて作出されたというのが、メダカ愛好家の中では通説と成っています。そもそもまだ改良メダカが近年のように多くの人に知られていないころ、ひとつの趣味で長年、改良メダカの研究をし、独自の観点から試行錯誤の上でやっと本品種を生み出し、それから特に公に触れ回る事無く、それも愛好家という純粋な気持ちで日々大事に累代繁殖を重ねて更なる固定化を進めて来られたことと推察します。それがある時期に差し掛かり、この螺鈿光があまりの美しさ故にマニア間でも少しずつ譲渡され合うようになり、それらがまた少しずつ、市場へ出回るようになったのではないかと推察しております。
そんな螺鈿光というメダカに、魅了されてはや数年、め組。はこの螺鈿光一筋!と言って過言ではない程に、繁殖場でもスペースを確保し、多くの累代繁殖に取り組んで参りました。め組。で現在保有している体型(タイプ)は、普通、ダルマ、半ダルマ、ヒカリ、ヒカリダルマ、ヒカリ半ダルマで、そこに白系、青系と属性を有し大きく分類しています。容姿的な特長は主に、体内外に発現する光彩をもち、その光の色は多彩で赤・オレンジ・青・緑・黄と虹色効果を持ち、その分布域の凝集と拡散のタイプと色調のバリエーションは個体によって様々な表情を持ちます。これは、螺鈿光血統一本で累代繁殖し続け、その子孫しか見ていないめ組。目線での分析です。このあまりにも多彩な表現力を持つ品種というのが螺鈿光の最大の魅力でもあり、逆にそれは今でこそ一般的に一言で特長を言い表す事が少々難しいという面を持つのも、この螺鈿光という品種なのだとも思います。
め組。ではこの螺鈿光を入手して以来、また独自の理想型を元に、より螺鈿光の魅力をより分かり易く高め、固定してしていくことに徹し続けています。それはまさに、螺鈿細工を施す!職人の魂にも似た、それが工芸品ではなく、メダカの体に意図的に表現したい!そういった気持ちで、自分の目利きを信じた種親選定を重ね、観賞魚としての更なる品質向上に繋がるように努力しております。また血統維持に関しては外部の類似系統の混入は避け、厳重な隔離スペースの中で、これまで多くの繁殖実績を掛け算しながら、数十の選別パターンを取り入れるなどの厳選作業の中から、また更に累代繁殖を重ねてきた血統達ばかりを、累代繁殖し続けております。この作業はめ組。繁殖場でも特別な位置づけをもち、私自身のこの品種へのこだわりの現れでもあり、それだけに、各個体群の螺鈿光であるという、血統筋と品質には自信を持っているのです。
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螺鈿光の魅力を語るに、その魚体から放たれる眩く美しい光沢の存在は欠かせません。その光彩のメカニズムをシンプルに申し上げれば、メダカにはそもそも、その体表(真皮層)に特殊な色素細胞、黒、黄、白、虹色の4種の色素胞というものを持ち、螺鈿光ではそのうちの光反射性色素胞とも呼ばれる【虹色素胞(iridophore)】から放たれるような、いわゆる薄膜干渉現象によって表現されるものを強く見る事が出来ます。これらの真皮層から反射されるメダカの光彩の理解は当然、螺鈿光というメダカにだけ特化した発現ではなく、近年の品種改良をほどこされたメダカ品種に多く見られる体色表現の基礎構造であるともいえます。ただ、螺鈿光などのまれに金属光沢をも思わせるような強い光に見えるものや、その光彩部分もいろいろなところにちりばめたものも存在することを垣間みると、このような表現にここまで特化した品種はそう多くは存在しないと思っております。
そのような個体群の大半が、単純に普通のクロメダカや緋メダカ、アオメダカなどの色メダカが色素胞の中の色素顆粒(chromatosome)の運動に依存し、メラニンやカロテノイド等の色素を含有する黒色素胞(melanophore)、黄色素胞(xanthophore)などの素胞数で体色を表現している品種とは違い、どちらかといえば主に、光反射性色素胞である虹色素胞(iridophore)のようなプリン体(主にグアニンという成分)からなる板状結晶(光反射小板)の重なり(重層)によって生じる反射光の薄膜干渉現象によって、真皮層から金属光沢を帯びた光を強調しているのだと思います。その板状結晶(光反射小板)による見え方も、重層の構成条件が(細胞質)高屈折率層(反射小板)の光学的厚さが等しいとき、ひと際高い反射率が達成できたものなどは、例えばタチウオの真皮にみられる鏡面ような輝きになる訳ですが、一方で、それに相対し、重層の構成条件がこれらから外れると干渉は非理想型となり、低屈折率(細胞質)と高屈折率(反射小板)の光学的厚さの違いが大きくなるにつれ、反射光の主ピークの低下とともに、ピーク幅が狭くなり、有色素胞がないにも関わらず非常に鮮やかな多色彩が発現するというものがあります。その相対関係を見ていると、螺鈿光の色彩発光の構造は後者の非理想型で有るようにも思います。
全身鮮やかなで艶やかで綺麗な青い熱帯魚の表面は、普通は色が有る印象からはじまり黒・黄・赤・青、などの色素顆粒を持った有色素胞などの関わりを想定するのですが、それは全てがいちがいにそうでもなく、この色素顆粒を持たない、虹色素胞からなる、非理想型の構造から生じた、色彩表現による発現であることが、この螺鈿光というメダカをよく観察する上で、少しは深く分かってきたように思えます。反面、まだまだよく解らない部分もあります。我々がよく体内光と表現している背びれ直下付近の中骨にあたる部分に、螺鈿光にも様々な光が発現しています。これは、前途に申した、真皮層による色表現ではなく、体内部の、しかも中骨に沿ってほぼ断面を十字に切るように光が入っています。これらの現象ももっと詳しく調べることで、よりメダカ構造を理解出来、将来、もっとすごいメダカに出会えるようなきっかけになるかもしれません。メダカに関していろいろなことを疑問に思い、またそれを追求していく過程は本当に面白いです。
いずれにしても、この螺鈿光が放つ光の美しさは、難しい理屈は抜きにして、まずは!ずっと見ていて飽きない、まさにプレイオブカラーのような奥深さを感じますし、それはまさにメダカによるイリデッセンスの象徴的存在であると私は思うのです。
ただ、これらの学術的見解からの知識はある種の事実を持った物理論であって、これらが生理学的にどう変化し、どう理想型に進化して改良を加えていけるのかが、螺鈿光だけに言える事ではなく、改良メダカ全てに見い出せる面白い目標意識、課題になってくるのだと思います。
ところで、この螺鈿光は、数年前から出現した幹之メダカの特徴に極似しているとされ、こんにちもその異種、同種という論争は双方の種に強制的に付加されるという特異な背景を持っています。私の個人的な観点で申し上げれば双方の違いという点ではこれまで螺鈿光を追求してきた目と経験と、幹之メダカというこれもすばらしい品種の存在を十分理解し、実際にこちらも繁殖データを持ちながら、め組。の店頭でもしっかりとした地位で取り扱っている事実を踏まえましても、双方の遺伝子の違い?は多くの個体群を見る中で、私也に区別、理解しているつもりでございます。しかしながら、この問題はメダカのスペシャリストの方々が今まで激しく論議されてきた難しい経緯などを考慮しましても、ここで私個人の断定的な差違表現に繋がる発言と立証はさらなる問題を招きかねませんので、あえて控えさせて頂きたいと思います。
また、現在のメダカ市場の動向を一通り目にしますと、例えば螺鈿光と幹之メダカの交配個体やまたその次の世代など次々に、更に多くの品種との交雑繁殖がなされていることも、事実として伺い知ります。しかしながら新品種作出を狙った交配という点では、メダカ飼育の大きな楽しみの一つでもあるのも事実です。独自に改良品種を作出する上でも必要な過程であると思っています。
そのような世情を踏まえましても、今や双方のメダカを並べて、どれが真の螺鈿光だ!これが幹之メダカだ!ということを断固主張し続け、あえてそう仕向けることは少々困難と感じてしまいます。ただ、私自身は、元来、螺鈿光も幹之メダカもどちらもすばらしいメダカだと思っておりますし、これからもそう思い続けると思います。それぞれがすばらしい遺伝子を持っていることも分かりますし、夢を持ってそうあって欲しいのです。そんな願いがある以上、逆に将来長いスパンで双方の良さを追求し続ける価値が非常に高いものとも考えています。そしてその魅力と結果は、まさにそれぞれの品種の確固たるポジショニングに繋がることかもしれませんし、その答えはまだまだこれからなのだと捉えております。
↑写真は、通常では挿しにくい頭部までビッシリ均一に光が伺える、すばらしい【幹之】最高峰個体です。
め組。では、こんにちまで螺鈿光の血統維持に関して非常に厳密なルールで管理しております。品種改良目的で他品種との交配をする場合はまた別系統への隔離作業はもちろん徹底したデータ管理と設備で行って来ております。なので、め組。の場合は、螺鈿光入手以来、そのままの系統筋を大きな一つの軸としたものがしっかりとしておりますので、現在までめ組。で螺鈿光とタグされるものは、め組。が自信をもって螺鈿光であるということを申し上げられる一つの明白な根拠と自信にもなっているのです。め組。が螺鈿光を螺鈿光として取り扱うこと。『螺鈿光から得られたものは螺鈿光である』このシンプルな構造だけなのでございます。
こうして螺鈿光に強い思い入れを持ち、こんにちまで系統維持して来た中で、今までも非常に多くの螺鈿光愛好家の方々から応援メッセージを頂くようになりました。そしてこの螺鈿光を作出された方からも直々にご連絡頂き、貴重な真実のお話もたくさん伺った経験もあります。それからより一層、螺鈿光という品種を好きになりましたし、それだけにこうしてめ組。で取り扱い続けることにも大きな責任も感じました。皆さんの気持ちを裏切る事のないように、これからもどんどんその美しい遺伝子を更なる進化と共に、め組。で培っていきたいと思っている次第です。め組。では螺鈿光の本来の魅力!潜在する魅力!こうした多くの魅力は、今後、実体を添えて!高い品質と美しさを持って、実在証明させて頂きたいと思っております。それがめ組。が追い求める一つの答えなのですから、、、。